title

 月の兎である鈴仙は、人里へ薬を売りに行ったり、永遠亭で主人の世話をしたり、程々に忙しくも穏やかに暮らしていた。
 ある日、仕事の帰りに妖獣と妖精の喧嘩の仲裁に入った鈴仙は、意図せず彼女らを自分の狂気に冒してしまったことに目の不調を感じ、コンタクトレンズで狂気の視線を抑制することにした。
 しかし狂気の瞳は鈴仙の意思や対策をあざ笑うかのように、部下の兎を、主人の敵を、妖怪たちを狂気に染めていく。
 自分の狂気が彼女らに自分を襲わせる。
 自分の存在理由が自分の手を離れる。
 自分で自分の首を締めている状況に心が耐えられなくなった鈴仙には、頼みの綱にすがりつく他、道は残されていなかった。
 しかしその道は、己の能力に一番詳しいはずの自分ですら分からないという現実を前にして容易く崩れ落ちる。
 少女たちが抱く『最も恐ろしいもの』をテーマにした、各巻完結型の幻想少女恐怖シリーズ第九弾。